エーリヒとカルロス/二人のクライバー

クレメンス・クラウスの97枚組を聴き終えた後、私は今度はエーリヒ・クライバーが聴きたくなり(二人は同じウィーン生まれで同時期に活躍していたライバルです)、既に沢山エーリヒのCDを持っているにも関わらず、重複覚悟でエーリヒの34枚組を購入しました。まだ聴いている途中ですが、驚くのはベートーベンの「田園」(交響曲第6番)が5種類も入っていることです。そもそも私がエーリヒ・クライバーという指揮者を大好きになったのは、学生時代にエーリヒの指揮によるコンセルトヘボウ管弦楽団の「田園」を聴いてからです。そのオケの自在なコントロール振りと、歌心溢れる演奏に一発で魅了されました。この34枚組に「田園」が5種類も入っているのは、やはりエーリヒの得意曲だったということでしょう。
面白いのがエーリヒの息子のカルロス・クライバーで、元々カルロスが有名になった演奏はベートーベンの交響曲5番と7番ですが、6番の「田園」については私の知る限り1983年のライブ盤のみが残されています。父親が「田園」を得意としていたから、カルロスの「田園」が素晴らしいかと言うと、私に言わせると、彼の残したCDの中でおそらく最低の演奏がこれです。極めてテンポがせかせかしていて落ち着きが無く、最終楽章もさらっと終わってしまって、ライブですが聴衆が「え?もう終わったの?」という感じで呆然としてしまい、拍手が始まるまでかなりの時間がかかっています。今、Amazonのレビューを見たらそういう演奏を褒め称えている人もいますが、カルロスのCDにしてはレビューの数も少なく、私は少数意見と思います。
エーリヒは彼自身の書き込みが入った多数の楽譜をカルロスに残したとされています。カルロスのレパートリーがかなりの部分エーリヒとかぶっているのはそのせいもあると思います。しかし、「田園」に関しては一子相伝の芸にはなっていないように思います。