古関裕而の「船頭可愛や」

今度は古関裕而の最初の大ヒット曲、「船頭可愛や」の楽譜を入手しました。うーん、これはかなりの難曲です。相当の歌唱力が無いと歌いこなせないと思います。西洋音楽でいうメリスマ唱法、日本でいう「こぶし」で母音を引き延ばしています。ただ、日本的なこぶしというより、西洋音楽的なトリルやターンが使われていて、そこが不思議なハイブリッド感を出しています。三浦環がこの曲を録音していますが、三浦環はまるきり西洋音楽としていわゆるコロラトゥーラ風に歌っています。またこぶしの女王、都はるみも歌っていますが、彼女は日本風とか西洋風どちらでもなく、自分なりに「はるみ節」として消化して歌っていてそこが素晴らしいです。これに対して完全に日本の民謡として歌っているのが三橋美智也。この楽譜の部分もまったく危なげなくさらりと歌っていて、元々民謡からスタートしている実力を十分に示しています。
ファとシが出て来ないということが、これがいわゆるヨナ抜きの5音音階なんでしょうね。リズム的にはエンヤートットとかドンブラコッコという感じでこれも伝統的なものです。しかし聞いていると必ずしも完全に民謡調でも無いように思います。古関裕而は最初はこの歌詞で西洋音楽的な曲を書こうとしましたが、ディレクターに説得されて民謡調に変え、それが結果的に成功します。ただ、一回聴いてすぐわっと好きになる曲ではなく、何度も聴いている味が出て来るという、古関の曲にありがちなパターンの典型です。この曲も8月くらいに発売されて年末ぐらいから人気が出てきたみたいです。現在だったらもう次の曲に移るようなタイミングですね。