ワーフェデールのDenton 85thのレビュー

今回新たに購入した、ワーフェデールのDenton 85thのレビューです。これを購入したのは、真空管アンプで現代のスピーカーがどの程度鳴らすことが出来るのかを実験したかったからです。実は10年以上前に買ったクリプトンのKX-3Pという出力音圧レベル87dBのスピーカーで既に試してみましたが、300Bのシングルアンプ、KT77のプッシュプルとも、それぞれ音量は狭い部屋の中で聞くには十分なものが出ます。問題は、鋭い音の立ち上がりで歪むことで、たとえばピアノの高音の強い音が割れます。これはシングルの方がひどく、プッシュプルでも若干出ます。良く人が音楽を実際に聞いている音量は1Wも無いから、3W+3Wの真空管のシングルアンプでも十分といった議論をする人がいますが、それは間違いだと思います。音楽の音量にはVUメーターで表されるような平均的な音量とピークレベルメーターで表されるような突発的に立ち上がる音量の両方があります。小出力のアンプは前者に対応出来ても後者については出力不足で歪みます。
それでKX-3Pはダメでしたが、このワーフェデールのDenton 85thは出力音圧レベルが88dB/mと現代のスピーカーにしては高いので、もしかしたら、と思って買いました。実はワーフェデールの前にJBLの3ウェイを検討して、こちらは出力音圧レベルが90dB/m以上ありますから真空管でも問題無いと思ったのですが、残念ながらブックシェルフタイプでは大きすぎるか小さすぎるかで丁度いいサイズがありませんでした。
それでワーフェデールは出力音圧レベルもありますが、落ち着いたデザインにも惹かれました。普通のブックシェルフに比べると一回り大きめで、構造的には普通のエンクロージャーの回りを木のキャビネットが取り囲むような構造になっています。この構造が独特の再生音を作っています。好意的に言えば独特の音場を作ってくれ、否定的に言えば若干ですが余計な音を付け加え音像の輪郭をぼかしている感じです。故にこのスピーカーはサウンドマニア向けではなく音楽ファン向けです。
ユニットは、ツィーターがテキスタイル、つまりソフトドームです。ソフトドームとは言っても、KX-3Pのもそうですが、現代のソフトドームは得意の弦やボーカルだけではなく、ピアノについても綺麗に再生します。ウーファーは16.5cmのケブラーコーンで、センターキャップ部はツィーターと同様の柔らかめの素材が使われていて、つながりを良くしています。このウーファーの腰は非常にしっかりしていて、低音についてはかなり強い押し出し感を感じる音になっています。なおサランネットを外すと、外側のキャビネット部は若干ですが、フロントホーンの形状になっています。なのでスピーカーの置き方としては、ラックに平行ではなくて、メーカーが推奨している通り、それぞれ左右を少しユーザー側に向けた方がいいと思います。
音はちょっと聴いた感じではレンジが狭いような気もするのですが、良く聴きこむと高域も低域も十分伸びています。特に低域はバスレフ(パイプ状のダクトが2本背面に付いています)であるにも関わらず、40Hzがある程度の音量で鳴らせています。このバスレフは低域を持ち上げるというより、スピーカーの背圧を抜いているような感じです。
音楽ジャンルとしては何を聴いてもそつなくこなしますが、特にオーケストラの量感の再生に優れていると思います。ボーカルはほんの少しですが音像がヴェールをかぶったような感じで、これはエージングで改善されるかと思います。音場は前にではなく横と後方に拡がる感じです。
最近ずっとバックロードホーン+サブウーファーをメインにして来ましたが、こういう一本でOKというスピーカーもなかなかいいと思います。これだけの質のスピーカーがペアで14万円でしたので、コストパフォーマンスは高いと思います。(昔RogersのLS3/5Aをペアで買った価格より安いです。)
最後に真空管アンプで鳴らせるかですが、シングルはさすがにまだ苦しくやはり音割れが発生します。プッシュプル(定格:20W+20W)はそれに比べほぼ問題ありませんが、若干低域の制動が弱い感じで、アキュフェーズのE-600で聴くのが当然とはいえ、このスピーカーにはふさわしいようです。