白井喬二の「彦左一代 天馬の巻」

久しぶりに白井喬二作品で、「彦左一代 天馬の巻」を読了しました。2022年11月に、上巻の「地龍の巻」だけを読んでいて、下巻を探していましたが、古書店のTさんがわざわざ私のブログで入荷した旨をコメントで教えてくださり購入したものです。この場をお借りしてTさんに御礼申し上げます。
下巻はいわゆる「天下のご意見番」となった大久保彦左衛門の活躍が描かれますが、いわゆる講談での籠での出仕が禁じられたので桶に乗って登城したなどの通俗エピソードは紹介されておらず、白井作品の主人公らしく筋を通し、言説を駆使し、出世を拒み、主君家康に尽くす彦左衛門が描かれます。ただ出世を拒んだと言っても、歴史的事実は大久保彦左衛門はそれほどの戦勲を上げたというのは疑問で、関ヶ原の戦いの前哨戦及び本戦でも真田幸村に散々な目に遭わせられています。三河以来の直参だから二千石まで言ったのであり、それ以上の禄をもらう程の器量は無かったというのが正解でしょう。ただ清貧に甘んじ、浪々の身の侍を多く食客として抱えていたというのは事実みたいで、そういうのが誇張されたのが「天下のご意見番」なんでしょう。そうはいっても、この作品で彦左衛門が福島正則を何度も凹ませる活躍は痛快です。この作品が出版されたのは昭和17年10月でミッドウェー海戦以降の敗戦は国民には伝えられていなかったでしょうが、次第に戦況が悪化していっていた時で、このような作品は国民に少しでも慰撫を与えることが出来たのではないでしょうか。