最近家のオーディオシステムを一新して、またクラシック音楽をかなりの時間聴くことが増えたため、何十年かぶりに「名曲名盤」ものを買いました。レコード芸術という雑誌が延々と何十年も定期的にやっているものを、何年かに一回書籍にするもので、これは2017年版です。
読んであきれたのは、
(1)未だにそれかい!
というのが多すぎます。ミュンシュの幻想交響曲、フルヴェン/バイロイトの第九、グールドのゴールドベルク変奏曲、等々。先日知人との論争で深く調べることになったモーツァルトのピアノ・ソナタイ短調(K.310)も未だにリパッティが圧倒的一位。(私はリパッティのイ短調ソナタの演奏はかなり特殊な演奏と思い、これがスタンダードだとはまるで思いません。)
(2)と思ったら流行に流されている!
(1)の一方で、モーツァルトの交響曲については、昔は(1970~1980年代)はワルターかベームかという感じでしたが、この本ではアーノンクールかブリュッヘン。このピリオド演奏というのも一種の流行りものであり、私は廃れる日が来ると思っています。
(3)ちゃんと色んな演奏聴いているの?
私が多分日本の誰よりも多く演奏を聴いていると思われるブラームスの交響曲一番(私はCD、レコードを210種くらい持っています)で、フルトヴェングラーが入っているのはいいとしても、北ドイツ放送響とのものに誰も投票していません。フルトヴェンのブラ1はこれ以外は不要と思うくらいの名演です。
シューベルトの「冬の旅」(60数種所有)についても、フィッシャー・ディースカウで一番いいのは55年のムーアとの初録音のモノラル盤だと思いますが、これに投票している人は一人だけ。クヴァストフ盤に投票している人は0。私が好きなフルラネット盤も0。女声でロッテ・レーマンが入っているのはいいとして、先ごろ亡くなったルートヴィヒや、白井光子に投票している人は0です。要はほとんど沢山聴いていない人が投票しているということです。
昔(1980年代)はLPレコードの新譜は一枚2,800円くらいで今より相対的に高かったので、折角買うなら名演奏のをということでこういう本の需要はそれなりにあったのですが、今はボックスものだと一枚当たり100円くらいのものまである時代で、こういう内容の、しかもほとんど過去と大差無く、さらには演奏の網羅性も薄い書籍が今後生き残っていくのか、正直疑問です。初心者の方にはこういう複数の人の投票制のものより、一人の人が偏見丸出しで選んだ本の方がはるかに面白いと思います。(有用かどうかは保証しかねますが。)網羅性として優れているのは吉井亜彦さんの「名曲鑑定百科」シリーズです。