もりたなるおの「芸術と戦争―従軍作家・画家たちの戦中と戦後」を読了しました。この本を読んだきっかけは、小林信彦の「ぼくたちの好きな戦争」で戦争中に風刺漫画家で活躍する秋間広次のモデルが近藤日出造であることを知り、その近藤日出造について小林はさらに「一少年の観た『聖戦』」の中で、戦犯ではないかと非難しているのを知ったことです。もりたなるおは相撲小説が有名で以前よく読みましたが、作家になる前は漫画家で近藤日出造の弟子です。なので近藤日出造の戦中の活動について書かれていないかと思ってこの本を取り寄せました。
この本では近藤日出造は直接小説の主題としては取り上げられていませんが、風刺漫画家岸丈夫の章で登場し、近藤日出造と加藤悦郎が戦争中、どぎつい風刺漫画を書いていたことは出てきます。
その他、この本で取り上げられている人は、井伏鱒二、火野葦平、藤田嗣治、東郷青児、吉川英治、横山大観、林芙美子、柳家金語楼など色々です。
藤田嗣治については、戦争画に打ち込み、非常にリアルな戦争画を多数書きますが、アッツ島玉砕、サイパン玉砕といった絵でリアルになりすぎて、軍部から「戦意を削ぐ」として活動を止められ、それでありながら、戦後は逆に戦犯として活動を差し止められそうになり、それで日本を捨てフランスに移住したとあります。こうした事情は今回初めて知りました。
また、日露戦争の旅順攻防戦を書いた戦記小説「肉弾」の著者の櫻井忠温が戦後公職追放になって苦労したりなども初めて知りました。
小説家、画家、漫画家などの戦争との関わりは様々ですが、戦争に積極協力した人も一概には責める気にはなれません。