白井喬二の「金襴戦」

jpeg000 220白井喬二の「金襴戦」(きんらんせん)読了。
「珊瑚重太郎」と一つの巻に入っていた小説ですが、白井喬二の作品としては、今一つよく分からない作品です。大正14年に婦人公論に1年間連載されたものです。白井喬二の自伝によれば、何故かこのあまり出来がよくないと思われる作品が、太平洋戦争の時に陸軍恤兵部により兵隊に慰問品として送る小説として7-8回も選ばれて、大変な部数が前線に送られたとのことです。「戦」とついているのが兵隊向けと思われたのか、遊女が出てくるのが兵士の慰めになると思われたのか、理由は不明です。
お話は、飛騨の山奥の村で、金襴(金色の派手で高価な織物)を織っているのですが、その染め加工の時に出る鉱毒で、下流の村の農作物が被害を受け、金襴の村と下流の村で戦いになるという話です。主人公が、蝉の抜け殻を集めて漢方薬屋に売るという実に変わった職業の男なのですが、この主人公が白井喬二の主人公にしてはまるでいい所がなく、物語の冒頭で山の中の牢に捕らわれた死刑囚から伝言を頼まれるのですが、それを伝えるのをすっかり忘れてしまいます。その事が金襴の鉱毒を巡る戦いの直接的な原因になってしまいます。また、この男は、湯屋の遊女が人買いの男を殺したのに立ち会い、その遊女を連れて逃げるのですが、途中で遊女に心中を迫られまれ、遊女を置いて一人で逃げてしまいます。白井喬二はこの物語にきちんと結末をつけないまま終わらせてしまいます。

白井喬二の「金襴戦」」への2件のフィードバック

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