白井喬二の「陽出づる艸紙」、元は講談倶楽部 1936年1月から12月まで12回連載だったものですが、その1936年(昭和11年)の1月号、8月号と11月号の分だけを読みました。この作品はもう一つの「富士に立つ影」です!何かというと、高月相良と綴井萬貴太という東西のどちらも武芸・学問百芸に秀でた者が、その武芸・学問の様々な分野に渡って争うという、「富士に立つ影」の裾野篇の佐藤菊太郎と熊木伯典の争いの再現のようだからです。1月号(初回)では、下野国塩谷城の家老の綴井左太夫が、自分の最初の息子2人の教育を間違えたのを反省し、3番目の男子である萬貴太を「出来ないことのない万能児」に育てようとします。そのために左太夫は8万両を超えるお金を遣い、また付けた師匠は200人に及びました。その甲斐あって、17歳になった萬貴太は、誰にも負けない万能児として完成します。左太夫はこの萬貴太の完成をテストするために、もう一人猊下と呼ばれる万能の巨人である高月相良と対決させることを決意します。しかし、その旅立ちの時、ちょっとした間違いから殿様の勘気を被り、萬貴太共々蟄居閉門を仰せつかってしまいます。しかし左太夫は妹の幸江を萬貴太の身代わりに仕立て、萬貴太を旅立たせます。8月号ではまず二人が出会い、その瞬間から早くも論争が始まり、萬貴太が懐に忍ばせていた袋の中身を巡って、丁々発止としたやりとりが始まります。二人はお互いに5つの課題を出して、それを籤で一つずつ選んで勝負することになりました。11月号は、二人がお互いの家系についてディベートを行うもので、萬貴太は相良の先祖に平将門がいることを曝露して、自分が閉門蟄居の所を抜け出してきているという弱点をこれでおあいこにします。続けての勝負が流鏑馬探しといって、お互いが矢文を打ってそれぞれが相手の打った矢を探し、その矢に付けられた文を見て、そこに書かれた三つの問題を解いて実行する、という戦いです。3回分だけ読んでも非常に面白い小説であり、なんでこれが単行本になっていないのか、理解に苦しみます。
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