ノーマン・G・フィンケルスタインの「ホロコースト産業 同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち」を読了。デボラ・リップシュタットの「肯定と否定 ホロコーストの真実をめぐる闘い」をより客観的に評価するために読んだもの。フィンケルスタインは自身もユダヤ人で、その両親は両方とも強制収容所の生き残りです。フィンケルスタインは、アメリカのユダヤ人エリートたちが、「ホロコースト」を政治・経済的な道具として、スイスの銀行からなどから金をむしり取ろうとする動きを「ホロコースト産業」と呼んで強烈に批判します。筆者によれば1960年代の終わりまで、アメリカで「ホロコースト」が話題にされることはほとんどなかったと言います。それが変わったのがイスラエルがアラブ諸国に対して完全な勝ちを収めた第三次中東戦争からで、アメリカはイスラエルを中東における自分たちの権益の代弁者と見なすようになります。またイスラエルのプロパガンダとして、この戦争でアラブ諸国に対して圧倒的な軍事力を持っていたのにも関わらず、ユダヤ人に対して「第二のホロコースト」が行われようとしている、という考えを広めていきます。その過程で「ホロコースト」の政治・経済的な価値が見直されていきます。それがもっとも顕在化したのが、1995年から始まるスイスの銀行に眠っているとされたユダヤ人の休眠口座のお金を返還するように求める運動で、その過程で「強制収容所からの生還者」は実数の10倍近く水増しされ、法的に正当な要求というより一種の「ゆすり」であったことが述べられます。しかもスイスから支払われた巨額のお金が本来それを手にすべき強制収容所からの生還者にはほとんど回らず、ユダヤ人の諸団体によって別の目的に流用されたことが強く批判されています。
デボラ・リップシュタットもこの本に登場し、筆者によればリップシュタットの本は、実際にはそれほど力を持っていた訳ではない現在の反ユダヤ論者の存在を誇張し、聞いたこともないような反ユダヤ論者をリストアップしたとしています。また、リップシュタットの裁判の相手であるアーヴィングについては、ヒットラーの賛美者で大きな問題がある学者であることは認めつつも、アーヴィングが第二次世界大戦の事実で新しいものをいくつか発見し、それは歴史家によって支持されていることを述べています。
筆者の批判はきわめて辛辣ですが、ユダヤ人が非常に強い力を持つアメリカでは当然支持されず批判を受け、反ユダヤ論者達に力を与えるようなものだ、とされています。しかし、言語学者・政治学者のノーム・チョムスキーはフィンケルスタインを一貫して支持しているとのことです。(念のため、チョムスキー自身もユダヤ人です。)
いわゆる歴史修正主義については、反ユダヤ論者の側だけでなく、ユダヤ人の方からも逆の意味で事実をねじ曲げようとしている動きがあることは、きちんと知っておくべきと思います。また韓国からの執拗な「慰安婦問題」の追及にうんざりしており、さらに解決済みの補償問題を何度も蒸し返されている日本にとっても、ある意味他人事ではない問題です。