「新々英文解釈研究」の奇妙で時代がかった英語

「新々英文解釈研究」のおかしな所は、ごく普通の表現を十分マスターしていない人に、いきなりかなり奇妙な、レトリックで言えば「文飾」(figures)的な表現を教えることです。例えて言うならば、直球もまともに投げられない初心者の選手にいきなりフォークボールやナックルのような変化球を教えようとする野球のコーチに似ています。更に別の面では日本語を教えるのに時代劇の日本語で教えようとするのにもちょっと似ている所があります。

(5-b) He is the incarnation of avarice.
ともかく、incarnationが大仰で時代がかっています。incarnationとは例えば神の子が人の肉体を得てこの世に現れた、とかそういうことです。reincarnationは輪廻で生まれ変わること。
He is truly a greedy man. とかで十分だと思います。

(17-a) I do not love him the less for his faults.(彼には欠点があるがそれでも好きだ。)
多分口頭で言ったら多くの人に意味が通じないでしょう。
I love him none the less for his faults.の方が普通と思います。

(22-a) I am only too delighted to accept your kind invitation.(大喜びでご招待に応じます。)
実際の場面でこういう表現を使うと、それはほとんどジョークとしか受け入れられないと思います。敢えて日本語に訳すのであれば、「お招きに預かり恐懼感激に御座候。」といった感じでしょうか。
I
(24-b) We have two dogs, a white one, and a black one; the one is larger than the other.
このthe oneが前者で、the other が後者という説明になっています。ですがこれを口頭で言われたら、ほとんどの人にどちらがどちらか分からないでしょう。こんなものを覚える暇があったら、the former, the latter という「普通の」表現をまず覚えるべきです。

(65-a) I have a liking for that man.
これについては、かなり口語的な表現に聞こえます。
以前「謎の円盤UFO」で”I’ve no liking for you blacks.”という強烈な人種差別発言が出てきました。

この参考書の改訂者のコメントに「英作文にも役に立つ」とありましたが、とんでもないと思います。(敢えて言えば、確かに昔の大学受験の奇妙な英作文には有用だったかもしれませんが。)
通じない英語をせっせと教えている本にしか見えません。
私は、この本の初版とほぼ同じ時期に出版された、芳賀矢一・杉谷代水合編「書翰文講話及び文範」という、手紙の文例集を持っています。この本は昔の候文の文例が沢山載っている貴重な書物ですが、しかしながらこの文例集に載っているものは現代の手紙で使うことはほぼ100%無理です。日本語ですらそうなのに、英語でこの本が今でも使えると思っている人がいることは信じられないです。

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