秋の鹿の鳴き声

百人一首の猿丸大夫の歌「奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の 声きく時ぞ秋は悲しき」ですが、一般的には単に秋のもの悲しさを歌ったとされているようです。しかし秋に鳴く鹿(多くは雄)の理由は、雌鹿を求めて鳴いている(ニホンジカの繁殖期はピークが10月頃)ということで、このことは万葉集の昔から良く知られたことでした。であれば、この和歌の本来の意味は「ああ雄鹿が雌を求めて鳴いている。自分が求愛の和歌を詠んだとしても、この山奥では受け取ってくれる人もいない。」といった詠嘆の意味が込められていると思います。他にも以下の西行の歌のように、秋の鹿の鳴き声を歌ったものは多くあります。ちなみに先日私も初めて聞きましたが、鹿の鳴き声はピィー、キィーといった鋭く高い鳴き声です。

山家集(西行)
鹿の声山路に聞けばわが恋も身をひとつだになきと思ふかな
夜もすがら妻恋ひかねて鳴く鹿の涙や野辺の露と成らん
牡鹿鳴く小倉の山の裾近みたゞひとり住む我心かな
夜を残す寝覚めに聞ぞあはれなる夢野の鹿もかくや鳴くらん
妻恋ひて人目包まぬ鹿の音をうらやむ袖のみさをなるかは

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