白井喬二の「富士に立つ影」第十巻、明治篇読了。ついにこの長い物語の最後に到達しました。
明治の御代になりましたが、佐藤光之助は、時勢に合わせることができず、貧窮の生活を送っています。師の杉浦星巌の娘、美佐緒のコネで開成学校のグラスという外人教師に口を利いてもらったお陰で、開成学校の教職につきますが、そのグラスが生徒であった松村介次郎を怒らせ、切りつけられました。松村は逮捕されますが、それで開成学校の生徒達は憤激し、グラスの手引きで学校に入った光之助をも排斥します。
光之助は、いまや押しも押されもせぬ侠客となっている黒船兵吾(お園と佐藤兵之助の息子)が新門辰五郎に紹介してくれたことにより、日本全国の忠臣の事績をまとめるという事業の調査役として採用されます。そうしている内に、杉浦美佐緒から、古い西洋の楽譜を手渡されましたが、それは昔、錦将晩霞が使っていたもので、欄外に、佐藤兵之助が調練隊の隊長に決まった時に、熊木公太郎が錦将晩霞に祝いの曲を所望したという驚くべきことが書いてあることを発見します。
光之助は東北地方を旅し、各地の忠臣の事績を調査しますが、調べていくと、忠臣と褒め称えられる人物が、実際には無実の人間を殺めていたりして、必ずしも立派な人間ではないのを知ります。そうしている内に、仇敵である熊木公太郎こそ理想的な人物であったのではないかと思うようになり、公太郎の足跡を訪ねて歩き、公太郎が那須にいた時の知り合いである笛の名人の森義に出会って公太郎の話を聞くことができました。
光之助は東京に戻り、新橋の陸蒸気の駅で、熊木城太郎に出会います。城太郎はある人の助手として外国に出かけることになっていましたが、光之助は城太郎にもはや仇としては付け狙わないという和解を持ちかけ、ここについに熊木家、佐藤家の三代に渡る対立は終わりを告げます。
物語の最後に、作者は光之助に、「ただこの世はおおらかなる心を持つ者のみが勝利者ではあるまいか。」と語らせています。これがこの小説を貫くテーマであると思います。
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