白井喬二の「従軍作家より国民へ捧ぐ」を読了。昭和13年(1938年)11月に平凡社から出たもの。この年の8月に、白井はいわゆるペン部隊の一人として、陸海軍と内閣情報室がお膳立てした、文士の中国戦線視察に参加し、その時の体験を綴ったものです。参加した文士の中で真っ先に手記を出版したのが白井喬二です。なお、この時の経緯は、陸海軍と内閣情報室はあくまでお膳立てであり、「ご希望があれば…」という感じで慫慂したら、呼び出された文士全員が手を挙げた、ということが真相のようです。白井は陸軍班に入れられ、中国南方戦線の各地を回りますが、単に戦争の跡を視察したというに留まらず、揚子江を船で遡行していた時には敵の激しい砲撃を受け、危うく船が被弾しかけたりしていますし、上海から、爆撃に行く爆撃機に同乗したりしています。この「ペン部隊」以降、文士の戦争描写は、否が応でも肯定的なものばかりに成ってしまいます。文中、おそらく軍の検閲で削除されたと思われる箇所がいくつかあって、生々しさを感じます。なお、本書の後に、子供向けの従軍記として「愛児通信」というものが出版されることが巻末に予告されていますが、国会図書館で検索しても出てこず、実際に出版されたかどうか不明です。
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