遠藤周作の「海と毒薬」

遠藤周作の「海と毒薬」を読了。1945年の九大医学部における、アメリカ人捕虜に対する生体解剖事件を題材にした小説です。Wikipediaで読んだ実際の事件と、遠藤のこの小説はかなり異なっているように思います。遠藤の関心は「日本人とは何なのか」が主なものであり、大した葛藤もなく、生体解剖を行った関係者の姿がある意味淡々と描かれています。実際の事件は、当時(1945年5-6月)、日本の都市へ無差別爆撃を繰り返し、罪のない一般市民の命を奪っていたB-29の搭乗員への憎しみがあり、どうせ死刑にするなら、という発想で生体解剖を行ったということが推測されます。だからといって生きた人間を医療実験に使った関係者の罪は免れ得ないものだと思いますが、遠藤の描写は非常に一面的で突っ込みにかけるもののように思います。遠藤はこの作品については第二部を書く予定があったようですが、実際には書かれずに終わりました。

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