真空管アンプの電源スイッチの定格について

真空管アンプの電源スイッチの定格ですが、主としてギター用の真空管アンプの作り方を紹介しているページに以下のような記載がありました。

「スイッチにも定格電圧 と定格電流 というものがあり、これ以上かけてはいけない電圧値と、これ以上流してはいけない電流値というものが決まっている。この回路では100VのAC電圧がかかり、大雑把に考えてヒューズの最大電流ぐらいには耐えられるものを使いたいので、100V、2A以上のスイッチを使う。」

このスイッチの定格選定の方法は大いに問題があります。(大雑把過ぎです。)(更にスイッチでは「定格電圧」「定格電流」という言い方はせず、「電流容量」でAC125V10Aのように、使用する電源の種類と電圧、その時の(抵抗負荷での)最大容量としての電流値が通常記載されています。メーカーによってはもっと厳密な「AC-12 フォトカプラによって絶縁された抵抗負荷及び半導体負荷の制御」での容量のような記載をしている所もあります。)
スイッチの定格で考慮しなければならないのは、
(1)そのスイッチを使う回路での定常電流
(2)スイッチを開閉する際に発生する突入電流
(3)(2)の突入電流に関係する負荷の種類

の3つです。ヒューズの場合は原則的に(1)、(2)を考慮します。ヒューズが切れるのは電流が流れて発生するジュール熱(の短時間での累積値)が一定の限度を超した時にヒューズが溶けて回路が切れます。(2)の突入電流については、発生するジュール熱を積分した結果がヒューズの溶断限界を超えていなければ、そのヒューズは電源ON時に溶断しません。しかしスイッチの接点にとっては、積分したジュール熱よりもアークがどの程度の強さでどの位の時間流れるかが重要であり、ヒューズが切れないからスイッチもヒューズと同じ定格でOKということにはなりません。

(3)の負荷については、真空管アンプの場合は、スイッチは直接的には電源トランスにつながっており、間接的にその先の平滑回路である電解コンデンサーにつながっています。実はコンデンサーというのはONの瞬間に大量の電流を吸い込もうとしますので瞬間的に非常に大きな突入電流が流れ、スイッチにとってはもっとも過酷な負荷の一つです。またトランスも誘導負荷といって、単純な抵抗負荷に比べるとスイッチのダメージが大きくなります。(詳しくはここをどうぞ。これを書いた中の人は私です。)

従ってスイッチの定格としては、この場合は大きければ大きいほど良い、ということになります。(スイッチの定格は抵抗負荷という、抵抗だけの回路を前提にした値が書いてあります。実際の回路で抵抗成分だけというものは存在しませんので、ある意味バーチャルな数字です。定格が6Aだから6Aの電流が流れる回路で使えるというのは間違いです。)(微小電流の回路で大きな定格のスイッチを使うのは問題がありますが、真空管アンプの電源スイッチではそれは考慮不要です。)
目安としては、最低でもヒューズの電流定格の3倍以上、余裕を見るならば5倍以上をお勧めします。私が今回作製したアンプはヒューズは2Aで、スイッチの定格は125VAC15Aで7.5倍

にしています。(左の写真が今回使ったNKKスイッチズのS-21Aというトグルスイッチです。2極のスイッチを使ったのは「両切り」にしたからです。なお丸ナットは六角ナットに変更しています。)
以前キットで作ったPCL86超三結アンプの時は、125VAC10Aのロッカースイッチを使いました。この時もヒューズは2Aだったので5倍です。)十分余裕がない定格の電源スイッチを使うと、最悪接点が溶着してスイッチが切れなくなったり、またメーカーが保証している電気的操作回数よりも少ない回数でスイッチが駄目になるということになります。(特に安いギターアンプとかだとスパークキラーなどの突入電流を緩和する部品も入っておらず、スイッチオンで「ボツッ!」といったノイズが入るのがあります。こういうのはそのままスイッチの接点にもかなりのダメージを与えています。)

P.S. 2022年7月20日 上記ページの作者に連絡して、不適切な記述は修正していただきました。

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