A.J.P.テイラー著、吉田輝夫訳の「第二次世界大戦の起源」を読了。最初は1977年に出版され、論争を呼んだ書です。何故論争を呼んだかというと、従来は第二次世界大戦(欧州での)の原因をもっぱらヒトラーに負わせ、そこからヒトラーと話し合って何とか平和を保とうとしたチェンバレンなどの宥和主義者は間違っていた、という論調が主流だったのを、ヒトラーの行動には最初から首尾一貫した戦略があり、それに従って、(1)オーストリア融合(2)チェコスロバキア融合(3)ポーランドへの領土要求(ダンツィヒ=グダニスク、ポーランド回廊)(4)ポーランドへの侵攻、を進めていったのではなく、むしろ成り行きに任せてそういう進行になったとし、従って宥和主義者が努力したヒトラーとの平和的な解決というのは決して可能性が無かったことではないとしたものです。この二つの立場のどちらが正しいかを判定出来るほどの知識は持っていませんが、少なくともヒトラーは狂人ではないですが、その戦略構想は思いつきが多い、という部分には同意します。ただ、いわゆるドイツの「生存圏(Lebensraum)」がかけ声だけのもので、1939年当時ドイツは東欧との貿易で十分な利益を得ていたので、新たに領土拡張を意図したのは経済的な理由からではない、というのは同意しかねます。ヒトラーとナチスのドイツでの台頭は、ヴェルサイユ条約とその結果としての天文学的金額の賠償金、それによるドイツのハイパーインフレ、そして1929年の世界大恐慌による列強の関税による世界市場の分割ということが背景にあり、「生存圏」という目標は十二分に経済的な理由が裏にあると思います。1939年当時に東欧との貿易で利益を得ていたというのも、世界恐慌後ドイツは徹底した外国為替への管理体制を作り上げて、東欧の諸国とは二国間取引で閉鎖的な市場圏を作り上げた結果です。その次のステップとしてそれらの地域を自分の領土に取り込もうとするのは自然な流れと思います。
ちなみにこの本で同意出来ないのは、いわゆる太平洋戦争を欧州での戦争での裏で起きたもので、副次的なものに過ぎないとしていることです。日本とアメリカにとってこの論はとうてい承服出来ないものです。以前やはりイギリス人学者が太平洋戦争について書いた本を読んだことがありますが、その本では「太平洋戦争は日本とアメリカの戦争というより日本とイギリスの戦争であった。」と論じており、これまた日本人には到底承服出来ないものでした。何というか欧州中心主義、自国中心主義を感じます。そういうのがBrexitにもつながるのかなと思います。
ともかく、現在の世界あちこちでのきな臭い状況を見るに付け、先の大戦が何故起きたのかをもう一度考えることは重要だと思います。