獅子文六(岩田豊雄)の「海軍随筆」を読了。昭和17年に、真珠湾で散った9軍神の内の一人である横山少佐をモデルにした「海軍」を朝日新聞に連載して非常に好評を博したため、その後も朝日新聞に、海軍の各種学校、つまり土浦・霞ヶ浦の航空兵学校、呉の海軍潜水学校や、横須賀の海軍水雷学校を訪問して、そこの見学記をいくつか出しています。これらの一連の著作のため、獅子文六は戦後一度戦犯として「追放」の仮指定を受けてしまいます。獅子文六は「大東亜戦争というものがなければ『海軍』は書かなかった」としていますが、太平洋戦争の緒戦で真珠湾、マレー沖と大きな戦果を上げたことに感激したことが、直接の動機のようです。しかし、「海軍」とこの「海軍随筆」を読んでも、露骨な軍国主義賛美という感じではまったくなく、純心な若者とそれを育てた優れた学校システムに感激しているのが主です。それは、現在の人が、高校野球の名門校が、優れた監督の指導の下で甲子園で活躍するのに感激する、というのとほとんど変わらないように思います。また、獅子文六という人は大衆が望んでいるものを上手く文章とする人であって、それは戦中も戦後も同じだと思います。惜しむらくは、もう少し批判的な目があってもよかったのではないかということですが、戦争中の雰囲気の中で大衆作家にそれを求めるのは酷かもしれません。