白井喬二の「湖上の武人」を読了。昭和2年の3月から5月にかけて「文藝倶楽部」に連載されたものです。
大塚麗八郎はかつて江戸勤めの武士ですが、今は猪苗代湖の畔に家を構え女房の実家からの仕送りで悠々と暮らしています。その子嵯峨之介は、ある時磐梯塾という藩校の友人から、父親の麗八郎がかつて江戸にいた時、「蜥蜴八郎」というあだ名を付けられていた、と聴きます。嵯峨之介はそれを嘘だと思いますが、事実でした。麗八郎はかつて剣の腕で名を上げるために、何度か斬り合いをしましたが、何故かその度に「尻」を斬られ、それがついに五度に及んだため、「蜥蜴八郎」というあだ名を付けられたのでした。その麗八郎の元に、江戸での同僚が所用があって旅行に来たのに出会います。嵯峨之介はこの同僚に問い質して、「蜥蜴八郎」というあだ名が根も葉もないことを証明してもらおうとします。麗八郎は慌ててその同僚に、真実をしゃべらないよう頼みに行きますが、その時にその同僚の仕事を邪魔に思う狼藉者がその同僚を襲います。同僚は斬られて死に、その後その狼藉者と麗八郎の斬り合いになります。麗八郎は善戦むなしく最後は斬られるのですが、その斬られた所が今度は尻ではなく肩先であったので「良かった」と思って終わります。何ともとぼけた、しかし白井喬二らしい話ではあります。
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