吉川英治の「宮本武蔵」(戦前版)(風の巻)を読了。全6巻の内の第3巻です。この巻でも戦後吉川英治がGHQの検閲を恐れてせっせと削除したくなるような箇所は出てきていません。もしかすると、削除ないし書き換えたのは、非常に細かい表現の部分なのかも、と思い始めました。この巻では吉岡一門との戦いが出てきて、吉岡清十郎、吉岡伝七郎の兄弟と続けて倒し、そのため吉岡一門全部とも戦うことになります。この吉岡一門との戦いは実在の武蔵が晩年良く語っていたということで、ある程度事実なんでしょうが、伝七郎との戦いは引き分けだったとか、この戦いの後も吉岡一門が存在していたという説があります。
またこの巻では武蔵のライバルである佐々木小次郎が登場します。実は朝日新聞に連載していた時は、この巻くらいまではまるで人気がなかったそうです。主な理由は話が暗いから。ところが小次郎が出てきてから人気に火が付いたみたいです。その小次郎は武蔵が求道者タイプに描かれているのに対し、とても生意気で成功欲の強い俗物に描かれています。一説に拠れば直木三十五をモデルにしているのだとか。元々吉川英治がこの小説を書き始めたのは、「武蔵が名人かそうでないか」という直木三十五との論争がきっかけです。