白井喬二の「春雷の剣」を読了。「オール小説」の昭和31年7月号に掲載。白井喬二の時代に、講談のネタとして有名だった、南部藩の「相馬大作」を主人公にした短篇。実は、白井喬二の作品では「相馬大作」を扱ったものが後2作あります。一つは、1938年に「日の出」に掲載された「相馬大作」、もう一つは共同通信系の地方紙夕刊 1952年12月-1953年6月掲載された「新説相馬大作」です。後者は長篇作品ですので、今回読んだものとは違いますが、前者が今回読んだものと同じなのではないかと推定しています。白井がタイトルを変えることはよくありますし、戦前の作品を戦後の雑誌で発表し直すのもよくあるからです。但し、現時点では証拠はありません。
お話は、津軽藩と南部氏の盛岡藩が昔から色々と遺恨を持っていたものを、幕府へ檜を献じるという事から、盛岡藩の檜山を津軽藩が自藩のものとしたことから諍いが起こり、盛岡藩の相馬大作が、津軽藩の藩主を二代に渡って暗殺するという話です。これは講談に沿ったストーリーで、実際は相馬大作の津軽藩主暗殺の試みは一度だけで、しかも杜撰な計画のため失敗に終わっています。しかし、この試みは江戸市民によって「赤穂浪士の再来」として騒がれ、講談などで取り上げられると、いつの間にか暗殺は成功したことにされ、白井のこの作品もその線に沿ったものです。白井のこの作品では相馬大作が二代の藩主の暗殺に成功した後、自首しようと考える倫理的な男として描かれており、そこが白井喬二らしいです。
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