吉川英治の「宮本武蔵」(戦前版:大日本雄弁会講談社による昭和11年の出版)の全6巻の内の第1巻、「地水の巻」を読了。「戦前版」とわざわざ書いたのは、1949年に戦後初めてこの作品が復刊された時に、GHQの検閲を恐れて多くの箇所が削除されているからです。この作品の「戦後版」は既に中学生の時に読んでいるので、今回読み直している理由は「戦前版」の実態を知りたいということです。しかし、この「地水の巻」を読んだ限りでは、検閲で削除されそうな箇所はほとんど発見出来ませんでした。ちなみに「戦後版」は、吉川英治の著作権は既に切れているため青空文庫で簡単にチェック可能です。
最初に読んだ時も、この作品に夢中になった、という記憶はないのですが、今回もやはりそうでした。正直な所、本位田家のお杉婆さんみたいなキャラは私は苦手です。また、武蔵の最初の弟子として城太郎という少年が出てきますが、これが自作の歌を歌ったりして、「大菩薩峠」の清澄の茂太郎とそっくりです。またこの作品で「求道者」としての武蔵、「名人」としての武蔵のイメージが確立しますが、どちらも吉川英治のある意味創作で、歴史的実態からは遠い所にあります。吉川英治の作品では「鳴門秘帖」みたいな作品の方がずっと好きです。