クリス・チェインバーズの「心理学7つの大罪」を読了。買ったのは実に2019年なんですが、ちょっとだけ読んでかなり長期間そのままだったのを、例の20冊同時読書方式で1年前くらいから読み始めてようやく読了したもの。最初に買った動機は、私は心理学というものに偏見を持っていて(特に最近流行りのアドラー心理学とか)そういう意味で、心理学の実態がどんなにひどいかが書いてある本かと思って買いました。しかし中身はかなりまっとうで、心理学を本当の意味の科学にしようと、問題点の指摘と提言をしているもので、かなり参考になりました。心理学における実験と仮説検定は、医学と同じで統計学を用いた推論に過ぎないのですが、その実験データや統計処理がかなり恣意的に細工されているとか、ある人がやった実験を再現しようとすることが色々な意味で出来ないとか、心理学の査読付きの雑誌が「~がダメだった」みたいな論文はほとんど掲載せず、「一般には○○と思われているけど実はこうだったことが判明した」的な耳目を引くような論文を優先すること、ある人が実験に使ったデータが他の人にはほとんど提供されないこと、等々の問題点の指摘は非常に勉強になりました。そして科学雑誌にまず研究の計画を登録してオープンな批判を受けるなどの提案と実践は、私も「オープン翻訳」というのを提案して実践しているので、そちらも参考になりました。しかし、心理学は社会科学に比べるとはるかにまともだと思いました。社会科学・人文科学の研究は私に言わせると、趣味の世界であり、共同研究とか相互検証・批判がほとんど行われていません。そういう意味で心理学以外の方も読む価値のある本です。