小林信彦の「裏表忠臣蔵」を再読了。1988年の作品。この作品は作者自身のノートによれば、1964年に松島栄一の「忠臣蔵」を読んだことがきっかけになっているそうです。その1964年は東京オリンピックの年であり、また、NHKの大河ドラマで「赤穂浪士」をやっていて、ある意味忠臣蔵がブームだった年です。松島栄一の本は、吉良上野介の実像が、従来の忠臣蔵伝説でのものとはかなり違うであろうことを暗示したものだそうです。「裏表忠臣蔵」は、その「暗示」をもっと膨らませて、いわゆる忠臣蔵を吉良の身の上に降りかかった不条理な不幸(作者は吉良上野介をカフカの「変身」のグレゴール・ザムザにたとえています)として、スラップスティック的に描いたものです。
そういった逆説的「忠臣蔵」の設定は興味深いのですが、当然学術書ではないので、ある意味中途半端な印象を受けます。また小説として見た場合も、「ぼくたちの好きな戦争」と同じで暴力をスラップスティック的に描くのですが、ストーリー展開がこれまた中途半端という感じです。小林信彦の元禄版みたいな和菓子屋の跡取りの源太郎が出てきたり、近松門左衛門が出てきますが、当然メインは赤穂浪士の討ち入りの描写になるので、二人ともとって付けたような活動しかしていません。
私は1964年の大河ドラマの「赤穂浪士」は、小さすぎて観ていません。しかしながら、大河ドラマでの忠臣蔵はもう1回1975年の「元禄太平記」があって、これは観ています。この時の「忠臣蔵」も色々とひねってあって、必ずしも1964年の「赤穂浪士」のような設定がいつもスタンダードとしてあった訳ではないと思います。
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