白井喬二の「伊賀之介飄々剣」(上・下)を読了。1961年(昭和36年)に桃源社から出版されたもの。例によって、戦後の作品なのか、戦前の作品がこの時初めて単行本化されたものかがわかりませんが、読んだ感じではちょっとした濡れ場が出てくることもあり、戦後の作品のように思います。(確証はありませんが、京都新聞に1958年12月-1959年10月の間掲載された『弱法師』が初出ではないかと思います。何故かというと、作中で主人公のあだ名が「弱法師」だからです。)終わり方が非常に唐突で、余韻がなく、惜しい所で名作になり損ねています。素晴らしいのは設定で、主人公の氏名がなんと「徳川伊賀之介」です。徳川家康の6男である忠輝の息子という設定です。家康の孫です。この伊賀之介が若い時に、商人の娘であるお関を見初め、恋に陥ります。この恋のため、伊賀之介は高貴な身分を捨てて臣籍降下してお関と一緒になることを願いますが、将軍家の血が汚れるという「血統派」がこれを阻み、お関を監禁して無理矢理絶縁状を書かせようとしますが、お関はこれを拒み自害して果てます。「血統派」はこれに留まらず、お関の一家を将軍家を騒がした不届き者として斬殺します。全体の話は伊賀之介のこの「血統派」に対する復讐の物語です。お関の一家には幼い時に他家に養女に出されていた瀬浪がおり、この者だけが生き残って、伊賀之介は秘かに見守っていましたが、ある時瀬浪が腰元として召し抱えられることになり、その家から伊賀之介こそが瀬浪の一家を目茶苦茶にした張本人だと嘘を吹き込まれ、伊賀之介を付け狙うことになります。伊賀之介は、血統派の刺客からも付け狙われますが、名刀は町人になった自分にはふさわしくないと町人差しに換え、それを補うために花札に金属を貼り合わせた飛び道具を自分で考案し、それをもって刺客達と渡り合います。最後は、お関の一家に手を下した張本人の3人を見事討ち取るのですが、誤解が解けて一緒に住むことになった伊賀之介と瀬浪がこれからどうなるのかとか、伊賀之介の親の忠輝が2代将軍秀忠から、伊賀之介をどこかに閉じ込めるか討ち取れと命令されて、それがどうなるのかとか、色んなことが未解決で終わり、それが非常に残念です。おそらく白井喬二晩年の作品で、これ以上書き続ける根気がわかなかったのかと推測します。非常に惜しい作品です。
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