直木三十五の「南国太平記」(上)を読了。直木賞に名前を残す直木三十五の代表的な作品です。幕末の薩摩藩の「お由羅騒動」(藩主島津斉興の後継者として側室お由羅の子・島津久光を藩主にしようとする一派と嫡子島津斉彬の藩主襲封を願う家臣が対立して争ったお家騒動)を描いた小説です。ちなみに、最初に「お由羅騒動」を詳しく調べたのは、江戸研究家の三田村鳶魚で、直木の「南国太平記」はそれを断りもなく利用して書いたもので、三田村は激怒します。そしてその報復として直木を含む当時の大衆時代作家の作品の歴史考証のおかしさをばったばったと斬りまくった、「大衆文藝評判記」を出します。白井喬二もこの被害にあった内の一人です。この「大衆文藝評判記」の影響で、後の司馬遼太郎のような歴史考証のしっかりした時代小説を書く作家が登場します。しかし、私に言わせれば、そのことは逆に初期の時代小説が持っていた荒唐無稽な面白さを奪ってしまうことになります。(まあ、山田風太郎のような歴史考証と荒唐無稽さを両立させた、稀有な例外も現れましたが。)
まだ上巻なので、どのように話が進むかはまだ途中ですが、久光派と斉彬派の争いは、表面的な暴力によって行われるのではなく、久光派が、薩摩藩に代々秘かに伝わる「呪術師」の力によって、斉彬の三人の子供(幼児)を呪い殺す、というある意味陰惨なものになっています。これに対し、その呪術師の師匠が登場し、逆に斉彬の子の無病息災を祈る、ということで呪術対呪術の戦いになります。この先どうなるかわかりません。