木下恵介監督の「この子を残して」

木下恵介監督の「この子を残して」を観ました。「長崎の鐘」と同じく永井隆博士を描いた映画で1983年の作品です。脚本を木下恵介監督自身と山田太一が書いています。1950年の「長崎の鐘」の時はGHQによる検閲のため、原爆の被害の生々しい描写を入れることは出来ず、キノコ雲のシーンの後はすぐに焼け落ちた瓦礫のシーンになります。1983年のこの映画は、映画の途中にも悲惨なシーンは出て来ますが、最後にまとめるように、原民喜の「水ヲ下サイ」と峠三吉の「ちちをかえせ ははをかえせ としよりをかえせ こどもをかえせ わたしをかえせ」が朗読され、当時の悲惨な情景が描写されます。「水ヲ下サイ」は以前観たジョン・アダムズのオペラ「ドクター・アトミック」の中でも使われていました。(「ドクター・アトミック」は原爆を開発するマンハッタン計画の中心的な科学者であったオッペンハイマー博士を主人公にしたオペラです。)
永井隆博士自身は、原爆の被害を受けたことを、神が信者に与えた試練、燔祭(ホロコースト)と捉えていましたが、それは当然当時の被爆した信者全員がそう思っていた訳ではなく、この映画の中でも浦上天主堂での合同慰霊祭の時に、永井博士が読んだ弔辞に対する「異議あり!」の声や、永井博士の妻の緑のお母さんが博士に対して文句を言うシーンで代弁されています。
「長崎の鐘」は悲惨なシーンが少なく、また古関裕而の音楽の素晴らしさもあって、感動を得られる映画ですが、この映画は非常に重いです。何度も観る映画ではありません。丁度今週「エール」で「長崎の鐘」のエピソードであり、この機会しかないだろうと思って観ました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA