三上於菟吉の「雪之丞変化」(上)を読了。三上於菟吉は大正から昭和初期にかけての大衆小説の人気作家で、多作を誇りましたが、この「雪之丞変化」で人気の絶頂だった昭和11年に脳塞栓で倒れ、以後創作も減り、昭和19年に53歳で亡くなります。昭和9年から東京朝日新聞に連載されたこの「雪之丞変化」が代表作で、実に6度も映画化されています。主人公で妖艶な姿を誇る上方芝居の名女形である雪之丞が、実は親の敵として5人の者を狙っていて、そのために優男に見えながら実は剣の腕は免許皆伝という設定が、映画になりやすいのだと思います。その雪之丞を秘かに助けるのが、大泥棒ながら義賊でもある闇太郎と、雪之丞に横恋慕するこれも泥棒の軽業お初など、登場人物がちょっと変わっています。雪之丞の親は長崎の実直な豪商でしたが、長崎奉行と、その財産を付け狙う商人の陰謀によって、密貿易の罪を着せられ、一家は没落し、雪之丞の父は狂い死にします。子供だった雪之丞は、同じ長屋に住んでいた役者の菊之丞に引き取られ、女形としての修行を積みながら、同時に武芸の腕も磨き、親の敵を討つ日を心待ちにしています。