中里介山の「大菩薩峠」第8巻を読了。
この小説の冒頭で保護者である老巡礼を龍之助に斬り殺されたお松ですが、その場面を見ていた訳ではありません。また目撃者もいません。なので龍之助がやったことはわかる筈はないのですが、この巻辺りではお松は何故か龍之助が犯人であることを知っています。京都の島原で龍之助と偶然出遭った時には、龍之助が犯人だとはまるで知らなかった筈でした。この辺り、どうもご都合主義的な展開です。また、そろそろ物語全体が停滞し出した感じがし始めています。この巻では龍之助は眼の治療に信州の白骨温泉に行き、そこで冬を過ごすことになります。中里介山の時代には、白骨温泉は秘湯という感じでほとんど一般には知られていなかったようですが、「はっこつ」とも読めるのが作者の気に入ったからではないかと思います。新たなキャラクターとして、飛騨高山の穀屋の後家とその男妾が登場します。また、龍之助を白骨温泉に連れてきたお雪は、この小説のキャラクターとしては珍しく順良で誰とも親しくなれる人好きのする女性として描かれています。