「白井喬二 戦後作品集 人の巻(明治媾和)」を読了。収録作品と初出は以下の通り。「明治媾和」(初出不明)、「小角仙人」(初出不明)、「かぶと」(初出不明)、「琴責め」(「オール読物」1952年8月)、「権八ざんげ」(「オール読物」1953年2月)、「柳生の宿」(「苦楽」1949年5月)、「毛剃」(「週刊朝日・夏季増刊号」1953年)、「素人たち」(「モダン日本」1946年?月)。この巻も「初出不明」は昭和20年代の作品と思われます。この巻のお話はなかなか力作が揃っていると思います。「明治媾和」は日清戦争の時の下関の講和条約締結の前後を作家の松村操の目を通して描くものです。「琴責め」は、「天の巻」に「悪七兵衛」の話がありましたが、これは源氏による悪七兵衛探しで、悪七兵衛の女だった阿古屋を捕まえて悪七兵衛の行方をしゃべらせようとして、琴を弾かせることによって、心理的な拷問を行う様子を描いたものです。「柳生の宿」は、柳生但馬守宗矩が猿を二匹飼って、それに剣道を仕込んだら両方とも二段くらいの実力になってしまい、とうとう御前試合を行うことになって、という白井らしいとぼけた味の話です。それより珍しい作品は「素人たち」で、白井の作品としては初めて読んだ私小説的作品です。昔たまたま知り合っていた女性と疎開先の長野で一緒になるが、その女性は死んでしまい、娘へ遺品を渡すことを白井に頼むが、その娘は戦後の生活の苦しさでいわゆる「春を売る女」になってしまっており、一度警察に挙げられてしまっている。その娘へ、改心させるような一言を頼まれて白井が困惑する話です。白井の倫理観がよく出ている作品だと思います。
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