久し振りに剃刀ネタ。西洋剃刀(ストレートレザー)で入浴時に髭を剃り始めて3年9ヵ月くらいになります。現在常用している剃刀は7本で、月曜日はこれ、火曜日はこれ、という感じでローテーションして使っています。(コレクションの全容はここを見て下さい。)この剃刀の研ぎですが、始めた頃色々試行錯誤して、砥石で剃刀をキレキレにするのは結構大変で(私は砥石は57種67本持っていて日本刀を含めて色々な刃物に対応可能です)、簡単で効果的な方法として、ラッピングという革砥(ベルト型ではなく、テーブルに置いて使うタイプ)にダイヤモンドペーストの#8000と#14000を塗って研磨する方法で、これまではかなり満足出来る結果が得られていました。
しかし、最近になってもっとも古くから使っているDovoとThiers-issardの2本が、このラッピングでは切れ味が回復しなくなりました。それで何回か色々な研ぎ方を試行錯誤して分った結果ですが、写真の別のThiers-issardの剃刀の上部に見える光った部分、この部分がラッピングを繰り返した結果として無くなると、いくらラッピングしても元に戻らないということが判明しました。それで切れ味を復活させた手法ですが、
(1)革砥ではなく、ちゃんとした砥石で最低でも片面200回以上、この光った部分がちゃんと形成されるまで研ぐ。なお、良く剃刀の研ぎ方として説明されているような力を入れない研ぎ方ではなく、それなりに力を入れ、またエッジ部を押さえるようにして研ぎます。丸みがある刃の場合は、いわゆるX字研ぎのように傾きを変えて交互に研ぎます。ちゃんと研げていれば砥石の上に黒い金属粉を含む液体が出てくる筈です。
(2)番手は私は、1次研ぎでは#2000の人造砥石(ビトリファイド法)、2次研ぎで天然砥石(巣板)(おそらく人造砥石なら#4000~#6000ぐらい)を使いました。その後、3次研ぎで人工砥石の# 12000を使いました。
(3)次にラッピング(革砥に研磨ペーストを付けた研磨)で、# 8000と# 14000のダイヤモンドペーストを用いて刃をシャープにします。
(4)最後にベルト型の革砥で研磨剤無しでストロッピングして仕上げます。
ポイントは(1)の時にきちんと刃の端部の光る部分が形成されるまで研ぐ、ということです。
なお、研いだ後の刃のシャープさの確認として、爪に当てる、というのが良くやられますが、包丁ならこれでいいですが、剃刀では不十分で、手を切らないように注意しながら、指の腹を軽く刃に当てて、シャープさと刃が十分薄くなっているかをチェックします。(指を切らないように十分注意してください。)
なお、ついでに世の中には、革砥信者、特にコードバンの革砥の信者みたいな人がいて、砥石やペーストを使わなくても革砥だけで切れなくなった剃刀の切れ味が戻る、と主張している人がいますが、ペーストを付けない革砥に剃刀を研磨する能力はありません。
以前紹介した英語のシェービングの教科書に載っていた記述の日本語訳を再引用します。
「一度きちんと砥石でカミソリを研いだ後は、革砥でストロッピングさえすれば常にカミソリを良い状態に保つことが出来るという主張は、革砥のメーカーが宣伝文句として主張したものです。それらによれば革砥の表面を「金属化」したとか、特殊な表面処理をしたとか述べられています。しかし、読者の皆様はそのような「魔法の革砥」には注意していただきたいです。そういった処理は革砥の性能を若干改良するかもしれませんが、それ以上の効果があるということは否定します。革砥とカミソリの性質を良く理解すれば、革砥が砥石を置き換えることが出来ないことは明白です。」
革砥は日常のお手入れとして、微小な刃こぼれの断片が刃に付着しているのを除く、刃のバリを取る、刃についたゴミや脂を除去する、ということでしかなく、ペースト無しの革砥だけで剃刀の切れ味が維持されるということはありません。