獅子文六の「青春怪談」を読了。獅子文六の9回目か10回目の新聞小説(読売新聞)で、本人は「世間の標準からいって、多く書いたともいえないであろう。」なんて言ってますが、十分多いですよ、先生!というかこんなにたくさん新聞小説を書いた作家って他にいるんでしょうか。「悦ちゃん」の時も感じたんですが、獅子文六の小説に出てくるキャラクターはどれも現代でも十分通用しそうなくらい「新しい」です。主人公の宇都宮慎一は、現代風に言えば「草食系男子」、絶世の美男子に生まれていながら、性にはまったくがつがつしておらず、幼馴染みで男性的なバレリーナ志望の奥村千春とは仲良くつきあっていますが、情熱的に一緒になろうという感じではなく、亡くなった父親が残したお金を元手に高利貸しになろうと冷静に計算したりしています。お話しは、この慎一と千春が、自分達が一緒になる前に、慎一の母親(未亡人)と千春の父親(男やもめ)をくっつけてしまおうと画策するのですが、そうこうしている内に、自分達の仲もそれを妬む人間が出てきて、ドタバタに巻き込まれます。どんな展開になっても、最後は獅子文六のことだからハッピーエンドでまとめてくれるだろうと期待して裏切られません。後半部の「男性とは、女性とは」という問いかけも非常に現代的です。
昭和29年に連載されたもので、小林信彦風に言えば、本当に平和だった戦後の一時期が終わって朝鮮戦争が起こり、日本が逆コースを歩み始めたと言われた頃で、この年に自衛隊が発足しています。また第五福竜丸の死の灰の事件があり、初代ゴジラが封切られた年でもあります。
カバーのイラスト(高橋由季)もなかなかいいです。